強く願え。思考は現実化する!
~ナポレオン・ヒル
Think and Grow Rich — The Man Behind the Myth
もうかなり前になりますが、私がサラリーマンのころ、英書の翻訳に凝っていた時期がありました。そもそも学生時代、「社会人になったらもう勉強しなくていい」ぐらいに思って就職したのです。しかし、東京で働いていると、外資系企業でもないのに、外国人が次々とやってきます。
私は正直、英語が苦手なのに、外国人が職場にやってきては、英語をまくしたて、容赦ありません。そのつど、冷や汗をかきながら彼らとのミーティングを何とかしのぐ…といったありさま。語学力のなさを痛感させられる日々でした。そこで、心を入れ替え、好きでもない英語ですが、勉強することになったのです。ある日、英書のたくさん置いてある本屋さんに行きました。置いてある数多くの英書の中から、文体が平易で読みやすそうなものをえらびます。目的は、読解による英語力向上のためです。しかし、ただ読むだけならつまらないので、和訳して全文ノートに書き留めることにしました。まるまる1冊訳してみたところ、「我ながら、うまい翻訳だな…」と思い、ある有名出版社に掛け合ってみました。その結果、なんと、すんなり出版という運びになったのです。それをきっかけに、調子に乗り、結果的に6~7冊、立て続けに翻訳出版しました。もっとも当時はサラリーマンの兼業は禁止の時代です。ペンネームでこっそりと、しかしプロの翻訳家のつもりでがんがん翻訳作業していました(もっとも、専業の翻訳家になるつもりはなかったので2年ほどでその活動はやめましたが…)。
話は戻って…私の最初の翻訳本というのがいわゆる『自己啓発本』でした。「いかに人生成功させるか」的なよくある本です。出版社によると、この手のジャンルは大ヒットまでしなくても、出版すればそこそこ売れるとのこと。なので、出版社側も比較的企画を通しやすいんだとか。実際に私の翻訳本は2万部近く売れ、ベストセラーとまではなりませんでしたが、まずまずの結果となりました。確かに『自己啓発本』というのは、いつ、どの本屋さんに行っても置いてあります。そして、内容はどれも「強固な信念で願えば、すべてかなえられる」という感じのものです。このように本質的には同じような内容であるにも関わらず、本のタイトル、表現の違いだけで、これまで何万冊という新刊書籍が出ては消え、今も新たに出続けています。
そして、こういった類の『自己啓発本』には、共通する"もとになる本"があるとされています。よく言われるのが、ナポレオン・ヒル著の『思考は現実化する』。この本は1937年に米国で出版されたもので、現在まで、翻訳を含めると世界中で1億部以上が売れたとされています。とんでもないベストセラーです。
この本については、著者がその出版の経緯について述べています。それによると、ある日、彼が雑誌インタビューの目的で当時の大富豪で『鉄道王』と呼ばれていたアンドリュー・カーネギーに面会した。その際、カーネギーから「富を築く哲学」をまとめないか、との提案があったとのこと。その場で、ヘンリー・フォード、トーマス・エジソン、グラハム・ベルなど、当時の著名な成功者500人を紹介されることになったようです。世の成功者たちが巨万の富を築く共通するカギとなる法則は何なのか。それら有名人へのインタビューを通してまとめ、体系化したのが、この著作であるとのこと。
ところが、カーネギーの側近だった人物が言うには、カーネギーがナポレオン・ヒルと実際に会った、という事実はどこにもないというのです。また、ヒルが500人もの成功者と会ったことについても同様。500人のだれ一人として、彼のインタビューを受けた、という記録が残っていないらしいのです。ヒルの言によると、実際にインタビューは行った。しかし彼らとの間で交わされた手紙や写真というのは「あいにく、大火にあい、そこですべて燃えてしまった」とのこと。
また、彼自身の経歴について調べてみると、興味深い事実が次々とわかってきます。彼は若い頃から、いろいろ事業を立ち上げています。しかし、どれもことごとく失敗。しかもその間、何度も詐欺罪で告発されたり、逮捕されそうになったりを繰り返している。彼は一時、米国大統領のアドバイザーもしていた、などと彼の著書の中で述べています。しかし、それについても一切証拠なし。このように、いろいろ頑張ってはいたようですが、報われることなく、むしろ詐欺まがいの行為を繰り返す日々。結局、最初の妻にも愛想をつかされ、離婚となっています。成功への情熱は強烈であるものの、思い通りにならない人生。人を騙してばかりで、私なら、関わりたくないような男、ナポレオン・ヒル。それでも50歳代半ばになり、24歳年下の女性と再婚します。そして、その若い妻の助けもあり、出版した『思考は現実化する』がついに大ヒット。それも世界中に名前が一躍知られるようになったのです。「人生の成功の法則」と言えばナポレオン・ヒル。もはや、だれも疑うことなく、多くの人々から尊敬の念を集めるようになったのです。
あれから90年。今でも、世界中で、成功を夢見る多くの若者たちが、彼の著書を買い求めています。アマゾンの読者レビューでも、現時点で5点満点中4.2点の高評価。出版されて長い年月が経つ今でも、色あせることなく高い評価を受け続けているのです。そういった中、当然のように批評家たちは言います。「そもそも著者のナポレオン・ヒルなんて、詐欺師じゃないか。世界中の人が、あのとんでもない詐欺師に惑わされているだけだ。彼の成功哲学など、まっかなウソだ」と。
まっかなウソかどうかはわかりません。しかし、少なくともそこで書かれている内容は、彼が初めて編み出したものではないようです。今から数千年の昔、古代ギリシャやローマ時代の哲人たちも同様のメッセージを残しているのですから。そして、その主だったメッセージは、数千年たった今も変わっていない。となると、それらメッセージというのは「ある時だれかが初めて言い出した」という類のものではないのかもしれません。実は我々皆の心の奥深くに潜在的にそなわっていたものかもしれない。ただ、誰もそれに気づいていなかった。ある時、言葉巧みな詐欺師ナポレオン・ヒルという人物が出てきて、一つのきっかけを作った。それにより、多くの人が、自分の潜在意識の中に眠っていたメッセージに気づくことができた…ということなのかもしれません。
「強く願え。強固な信念で願望は実現する。それを心から信ずれば、あなたはどんな人間にもなれる」
このメッセージ、あなたはどう思いますか?あなたはどんな人になりたいですか?---あなたは決して、あなたが思うほど小さなものではありません。あなたに秘められた潜在能力、そろそろ爆発させてみますか?

