記憶力って良くなる!?
On Memory, Effort, and the Lifelong Brain
私がサラリーマンを経て医学部に入学したのは48歳の春でした。同級生は18歳なので彼らとはちょうど30歳差。入学して1年目は数学、物理、化学、心理学などの一般教養科目が中心です。年をとっているとはいえ、物理、数学はもともと得意なので、私は学内上位の優等生でした。それが学年が上がるにつれ、そうもいかなくなっていきました。
当然ながら2年生以降は医学教育が中心になっていきます。4年生以上ともなれば(医学部は6年間です)授業というのは、覚えることがいっぱい。記憶力が勝負になります。そうなると、私の成績はどんどん下がっていくのでした。それは決して私の年のせいというわけではありません。むしろ、周囲の学友の記憶力がどんどん良くなっていくからでした。他学部出身の私からするとそれはありえない現象です。
そもそも私が若いころに過ごした最初の大学は自由な学風が特徴。勉強するもしないも自由。一生懸命勉強してノーベル賞を目指すもよし、仮にしなくても、そこそこやっていれば卒業だけはさせてくれる大学でした。これほど楽なところはありません。そのため、入学時に秀才と思われていた学友たちも、卒業するころには皆等しく凡人になっていく。
一方で、私が中年になってから入りなおした医学部は、すでに述べた通り、入学してからが大変なところ。学年が上がるにつれ、覚えなければならないことがどんどん降ってくる。悲嘆している余裕などありません。気づいてみると、学友のほぼ全員がガリベンになっている。その過程を通して私にはわかりました。級友たちの記憶力が目に見えて良くなっていくのが。18歳の時より20歳→21歳→22歳→23歳と年を取るほど記憶力が良くなっていく。「こんなことってあるのか…」。それが私が医学生を経験した最大の驚きでした。
大学入学時の偏差値からすると、東大医学部がなんといっても一番。他を圧倒しています。ところが、卒業時の医師国家試験の合格率を見る限り、東大の医師国家試験合格率はなぜか毎年、全大学の中で真ん中あたり。なぜなんでしょう。ひとつの見方ですが、日本全国の医学生が全員、全力でガリベンをやる。それにより皆、どんどん賢くなる。そのため、いつしか入学時にあった東大との圧倒的な差がなくなってしまっている…というものです。
人間必死になれば、世の中で"最高の秀才"と呼ばれる人たちにも皆追いついてしまう。それを実感したのも医学部での生活を通してでした。
さて、あなたはどうでしょう。自分には関係ないやと思っているでしょうか。実際、あなたは若い頃、死に物狂いで勉強することはなかったかもしれません。しかし、もしあなたが若いころ、そうしていたら、きっとものすごい秀才になっていたはず。これ、決して冗談でなく、そう私は確信しているのです。
あなたは今、何歳でしょうか。50歳も過ぎてくると皆さん同じことをおっしゃいます。「最近、記憶力が悪くなって」…。60歳、70歳を超えてくると、「ちょっと前のこともすぐに忘れてしまう。認知症が心配だ」と外来を受診される方が多くなってきます。
アルツハイマー型認知症など、病気の場合は別として、加齢に伴う記憶力の衰えには、確実な解決策があります。それは、もうおわかりですね。ひたすら頭を働かせること。
だからと言って、さすがに今から「ガリベンしましょう!」とは言いません。でも、頭を使い続けることは重要です。記憶力を維持するには間違いなく重要なことです。そのためには、何歳になろうと現役で仕事を続けるのが一番。
病気の場合は別として、定年過ぎて何もしなくなるのは言語道断。趣味でも構いませんが、できれば報酬を得られる仕事を持ち続けることが良いと思います。報酬はひとつの励みになりますし、そうした仕事には責任感、緊張感が伴います。世の中日々変化しているわけですから、いつになっても覚えなければならないことは出てきます。仕事を続けるということは頭を使い続けることでもあるのです。
人生100年時代と言われている現在、これからのあなたの人生は思っている以上に長いです。この世を去る前の日まで、あなたも私も、最後まで現役でがんばりたいものです。

