算数・数学はあなたの人生を守る
Mathematics — The Shield You Never Knew You Needed
古今東西、世の中には共通して人々に嫌われるものがあります。"算数""数学"もその一つではないでしょうか。小学校に上がった頃、足し算、引き算、掛け算、割り算を習います。それらは、生きていくうえで極めて重要です。ですから、親たちは一生懸命「算数は大事だよ!」と子供に言い聞かせます。子供も100点もらえると親から褒められるし、おじいちゃんからもご褒美のお小遣いをもらえたりして、一生懸命勉強しようとします。しかし学年が上がり"分数の計算"が始まる頃になると、様子が変わってきます。子供にとってそれらは難解です。初めての試練です。そこで親に聞くと、意外に親も「わからない」という。頼りの親にも見放され、子供はそこで、人生初めて孤独感を味わいます。その後は、親はもう、つきあうのを完全にあきらめ「あんた、がんばりなさいよ」の一言だけ。そして、中学になり、高校になり、もう訳が分からないまま「中間・期末試験だけなんとかクリアできれば…」という感じで、ごまかしながら、大人になって行きます。大人になって、ようやくその世界から解放され、一安心。たまに日常生活で数学の話題がでようものなら、もはや蕁麻疹がでてきそうです。
このように、世の中の嫌われ者"算数""数学"。ですが、大人になると「皆、数学が嫌い」なことを知っている人たちが、それを商売のネタにし「機会があれば、いつでもあなたを騙そう」と狙ってくるのです。
中世末期のヨーロッパの大航海時代…その中心はスペインでした。彼らはアメリカ大陸を発見し、中南米を中心に、どんどん進出していきました。古くからあったインカ文明やマヤ文明を滅ぼし、戦利品の金銀財宝を本国に持ち帰ります。同時に世界最大の銀産出量を誇る南米ボリビアのポトシ銀山を発見(ちなみに当時の世界第二位は日本の石見銀山)。それ以降、大量の銀貨が鋳造され、世界に広まることとなったのです。大量の銀が持ち込まれたことで、結果、スペイン本国のほか、周囲のヨーロッパ諸国は、インフレに見舞われることになります。というのも、麦もワインも豚も、商人たちが気前よく高い値段(たくさんの銀貨)で買ってくれるからです。かくして、それまで極貧にあえいでいた農民たちは豊かになり、農奴から徐々に解放されるようになりました。
当時、ヨーロッパは封建社会で、地主の貴族たちは小作人である農奴から小作料を徴収して豪華な生活を維持していました。ところが、当時のヨーロッパ貴族というのは、ちゃんと勉強していません。文字を読めるかどうかも怪しい。それ以上に算数や数学に関してはほとんど教育を受けていません。教養を身に着けていたのは教会の牧師さんくらいです。同時代の日本人と比べ、欧州人は明らかに教養レベルが低かったのです。算数といえば、できるのは一桁の足し算、引き算くらい。掛け算になるとあやしくなります。二桁以上の計算になると、もう無理…。そういった状況です。インフレの中、野菜や果物や穀物、肉の値段が上がっても、貴族が小作人に要求する地代は、先祖が決めた値段そのままでした。なぜか?そもそも教養を身に着けておらず、商売の経験もないので"インフレに合わせて地代を上げていく"などといった発想などなかったのです。それに、地代を上げるとなっても、いくらにしたらいいのか…、基礎となる計算能力を持たない彼らには、到底、無理な話です。結果、この大航海時代以降のヨーロッパの貴族は、相対的に貧乏になり、一部には没落していった者もいたとされています。
以上、算数や数学といえど、場合によっては、自分たちの生存すら脅かす、実に、怖い実例の紹介でした。
かたや現代日本…「四則演算くらい当然でしょ。そのくらいの教養は十分に身に着けているわ」と多くの人たちが思っています。しかし、実際のところ、「あーこの人、騙されているな···」と思える場面に遭遇することが時々あります。最もよく目にするのが『金利』とか『利息』にからむ場面でしょうか。その最も大きな原因に『複利の概念』(利息が利息を生み出すという概念)があります。
たとえば年10%の利回りの商品があるとした場合、30年間の投資収益は300%で元利合計で4倍と考えがちです。しかし、実際は毎年、利息が利息を生んでいくので、その間の投資収益は1840%。つまり、30年後には、最初の投資額の19.4倍になります。けっして驚くことではありません。しかし、ここで「30年間の収益が18400%」と聞くと、多くの人は1年あたりの利回りを1840%÷30年=61%と単純計算してしまいます。結果「1年間でなんと61%の利回り?!」と勝手に思い込み、舞い上がってしまうのです。金利の高かったバブル期…町の金融業者などは、よくこういった人々の錯覚を巧みに利用して商売していたものです。
実は、それ以上に厄介なのが『確率』です。人々の錯覚を生み出しやすい概念です。そのため、それをうまく利用し「ひと儲けしよう」とする人たちが現れます。あなたが思っている以上に日常生活の中に浸透している"数学"と言えます。
そもそも「人は小さい確率の出来事をしばしば『歪んだ形』で評価する」つまり「低い確率を過大評価し、高い確率を過小評価する」と言い出したのは、2002年のノーベル経済学賞を受賞したトベルスキーとカーネマンです。特に、宝くじのような「"起こる確率はごく小さいが、利益が大きい"ものは、"実際よりも起こりやすい"と感じやすい」としています。そのため、多くのひとが宝くじ売り場で列をつくったりします。これは、ギャンブル全般に言えることですが、人は一般に"当たるかもしれない"ということに過度に引き寄せられる傾向があります。実際に"宝くじ購入者ひとりひとりの払った合計の金額"に対し"当選者全員に支払われる合計金額"は半分程度とされています。つまり1万円投資しても返ってくる平均額は5千円だけ。残りの5千円分は宝くじの主催者(みずほ銀行など)の儲けです。そのことを頭で理解していたとしても、心の中では"夢の当選!"ばかりが大きく見える。人々はそれに吸い寄せられ、ついつい買ってしまうのです。
それを万人に認められるビジネスにしたのが保険でしょうか。1985年8月12日、日本航空123便(乗員・乗客あわせて524名)が羽田空港を離陸後、御巣鷹の尾根に墜落炎上。520名が犠牲となりました。とても痛ましい事故でした。私はこの事件直後、飛行機に乗る機会があったのですが、それまで関心のなかった航空機事故保険に加入しました。そもそも飛行機の墜落する割合は数百万分の1とされ、めったに起こるものではないことを知っている私です。この数学好きの私ですら、主観的にその起こる確率をずっとずっと高く感じ、そのため、めったに入ることのない"東京海上"の保険に入ってしまったのです。同時期、私と同様、かなり多くの人が飛行機事故保険に入ったようです。犠牲者の方には全く失礼な話で、世間に公表はされていませんが、あの事故によって、損害保険会社がかなり儲かったのは事実です。また、保険と言えば、生命保険も同様です。今はどうかわかりませんが、昭和のころ、結婚すると、新郎は必ず生命保険に加入したものです。「万が一、君に何かのことが起こったら、嫁さんはどうするんだ!」と周囲のだれからも脅されます。新郎自身も「その通りだよな」と保険に入ることに一切疑問を持ちません。
そもそも確率的には、めったにそう不幸が起こることはありません。先のトベルスキーとカーネマンの言葉を言い換えると「"起こる確率はごく小さいが、損失が大きい"ものは、"実際よりも起こりやすい"と考える」。だから高めの保険料でも皆が保険に入る。おかげで、昭和時代は生命保険会社は丸儲けでした。
以上、今日は「嫌われ者の"算数""数学"って、生きていくうえで実は重要なんだ!」という話をしました。しかし、あなたが中高年で「いまさら勉強しなさいと言われてもね~」と思っているのはわかっています。だから「今から勉強しなさい」とは言いません。ただ、うまい話には裏がある。だから『うまい話には、決して安易に手に出さないこと』が重要!。それを今日のまとめの一言としておきましょう。

